Intelの最新CPUに統合されるグラフィックス「Arc 140T」のベンチマーク結果が初めて公開されました。競合するAMD Radeon 890Mとの比較データによると、用途によって明暗が分かれる興味深い結果となっています。特に電力効率の面ではIntelが大きなアドバンテージを持っていますが、純粋なゲーム性能ではAMDが優位なケースも多いようです。今回はこの最新iGPU対決の詳細について深掘りしていきます。
Arc 140TとRadeon 890M：基本スペックと位置づけ
Intel Arrow Lake世代の統合GPU「Arc 140T」は、同社の最上位モバイルCPU「Core Ultra 9 285H」などに搭載される予定の高性能グラフィックスソリューションです。より下位モデルに搭載される「Arc 140V」と比較して強化されており、AMDの最新統合GPU「Radeon 890M」との直接対決が予想されていました。
Radeon 890MはAMDのRyzen AIシリーズに搭載される最新のiGPUで、前世代からの大幅な性能向上が謳われています。両社とも統合GPUの性能強化に注力しており、軽量ノートPCでもある程度のゲーミング体験を提供することを目指しています。
今回のベンチマークテストでは、Arc 140T搭載のMSI Prestige 16 AI EvoとAsus ZenBook Duo OLEDの2機種が使用されました。これらの結果から、両GPUの実力差が見えてきました。
ベンチマーク結果：3DMarkではIntelが優位も実ゲームではAMDに軍配
ベンチマークテストの結果は、使用するアプリケーションによって興味深い違いを示しています。3DMarkなどの合成ベンチマークでは、Arc 140TがわずかながらもRadeon 890Mを上回る結果となりました。これはIntelが近年強化してきたGPUドライバーの最適化が功を奏している可能性があります。
しかし、実際のゲームタイトルになると状況は変わります。人気RPG「Baldur’s Gate 3」や「Final Fantasy XV」では、Radeon 890Mが優位性を示しました。特に「GTA V」ではAMDがより大きなマージンでIntelを引き離す結果となっています。
一方で「Cyberpunk 2077」や「DOTA 2 Reborn」では、ドライバーアップデート後にはほぼ互角の性能を発揮。興味深いことに「Strange Brigade 3」というやや知名度の低いタイトルでは、Intel Arc 140Tが大きくリードしています。
これらの結果から、ゲームタイトルによって最適化の度合いが異なり、どちらのGPUが優位かは一概に言えない状況であることがわかります。
消費電力効率で圧倒的なIntelの優位性
最も注目すべき差異は、消費電力の面で見られました。「Cyberpunk 2077」実行時の測定によると、Radeon 890M搭載ノートPCはArc 140T搭載モデルと比較して約45%も多くの電力を消費していることが判明しました。
これは非常に大きな差であり、特に性能差がわずか10%未満であることを考慮すると、Intel Arc 140Tの電力効率の高さが際立っています。このデータは、バッテリー駆動時間が重要なノートPCユーザーにとって大きな意味を持つでしょう。
Intelはこの点を強みとして、「パフォーマンス・パー・ワット（電力あたりの性能）」ではRadeon 890Mを大きく上回ると主張できる立場にあります。Arc 140VとArc 140Tの両方で、電力効率の面ではAMDを圧倒していることになります。
日本市場への影響と消費者へのアドバイス
日本市場では、バッテリー駆動時間やファンノイズの少なさを重視するユーザーが多い傾向があります。その観点からは、電力効率に優れたIntel Arc 140Tは魅力的な選択肢となるでしょう。特に長時間のモバイル作業を行うビジネスユーザーや、静かな環境でのゲーミングを好むカジュアルゲーマーにとっては、消費電力の少なさは大きなメリットです。
一方で、純粋なゲーミング性能を求めるユーザーにとっては、Radeon 890Mの方が多くのタイトルで優位に立っているため、用途に応じた選択が重要となります。
価格面では、Intel Core Ultra搭載モデルとAMD Ryzen AI搭載モデルの間に大きな差はないため、消費者は自分の利用シーンに合わせて選択するのが賢明でしょう。
ドライバー最適化の今後と期待される進化
IntelのGPU部門は比較的新しく、ドライバーの最適化においてはAMDやNVIDIAと比べてまだ発展途上の部分があります。今回のベンチマーク結果でも、ドライバーアップデート後に性能が向上したケースが報告されています。
これはIntelが今後ドライバーの継続的な改善により、さらなる性能向上を見込める可能性を示しています。特に人気の高いゲームタイトルに対する最適化が進めば、現状でAMDに劣るゲームでも巻き返しが期待できるでしょう。
また、両社とも今後のドライバーアップデートやハードウェア最適化により、統合GPUの性能をさらに引き上げることが予想されます。これは特に薄型・軽量なポータブルゲーミングPCやノートPCユーザーにとって朗報となるでしょう。
統合GPUの重要性が増す背景
近年、ノートPCの統合GPUの性能向上は目覚ましく、かつては必須と考えられていた専用GPUなしでも、軽・中度のゲームプレイや創作活動が可能になってきました。この傾向は、バッテリー駆動時間やデバイスの薄型化・軽量化が重視される現代において非常に重要です。
IntelとAMDの競争激化により、統合GPU市場は急速に発展しています。Arc 140TとRadeon 890Mの対決は、この進化の一端を示すものであり、今後数年でさらなる性能向上が期待されています。
特にAIワークロードの増加に伴い、GPUの重要性はさらに高まると予測されます。両社とも、AIアクセラレーションに力を入れており、今後はゲーム性能だけでなく、AI処理能力も重要な比較ポイントになるでしょう。
まとめ：用途に応じた選択が重要な時代に
Intel Arc 140TとAMD Radeon 890Mの比較から見えてきたのは、「どちらが絶対的に優れている」という単純な答えはないということです。ゲームや3Dアプリケーションのパフォーマンスではタイトルによって優劣が分かれる一方、電力効率ではIntelが明確なアドバンテージを持っています。
消費者としては、自分の利用シーンをよく考慮した上で選択することが重要です：
- バッテリー駆動時間を重視する場合：Intel Arc 140T
- 特定のゲームで最高のフレームレートを求める場合：ゲームタイトルごとにベンチマークを確認
- 総合的なバランスを求める場合：どちらもハイエンドノートPCとしては十分な性能
最終的には、単一のGPU性能だけでなく、CPUパフォーマンス、冷却システム、バッテリー容量、画面品質など、ノートPC全体のバランスを考慮することが大切です。
今回のベンチマーク結果は初期的なものであり、今後のドライバーアップデートによってさらに状況が変化する可能性もあります。どちらのプラットフォームも進化を続けており、消費者にとっては選択肢が増えている点は喜ばしいことです。次世代のモバイルコンピューティングは、よりパワフルでありながら効率的になっていく傾向が明確になってきました。
パフォーマンス比較グラフ
3DMark 11 – 1280×720 Performance GPU
Cyberpunk 2077 2.2 Phantom Liberty
(1920×1080 Ultra Preset)
Cyberpunk 2077 2.2 Phantom Liberty
(1920×1080 High Preset)
ポチップ
ポチップ
